

ICHIBEN Bulletin 3月号インタビュー
今回の特集は、第一法規から『弁護士のためのマーケティングマニュアル』『弁護士のためのマネジメントマニュアル』を出版された船井総合研究所の出口恭平さんをお招きしてお話をお伺いします。
出口さんは、『弁護士のためのマーケティングマニュアル』のあとがきに、「まだ若い弁護士がどのようにして弁護士としての人生を切り開ける可能性があるのかをお伝えしたいと考えて出版された」旨、書いておられます。
本日はこのような観点も踏まえて、弁護士業務に役立つお話を伺えればと考えております。なお、出口さんは、日弁連の業務改革シンポジウムや幾つかの弁護士会でも講演をされた実績をお持ちです。
それでは、よろしくお願いいたします。
出口さんは2005年に法律事務所のコンサルティングをスタートされたということですが、自己紹介を兼ねまして、法律事務所のコンサルティングをされるようになった経緯と、どのようなコンサルティングをされているのかをご紹介いただけますでしょうか。
弊社(船井総合研究所)では業種別に調査やコンサルティングを行っています。私は以前、歯科や眼科等クリニックのコンサルティングを担当していました。クリニックも、かつては「経営」を意識されていなかった世界でしたが、徐々に経営に関心を持たれるドクターが増え、私どもも多くのコンサルティングをさせて頂くようになっておりました。
そのような中で、「士業の世界もクリニックに非常に近しいのではないか。士業の世界でも私どもの経営のノウハウをお役立ていただけるのではないか。」ということになり、調査を開始するに至りました。
「先生」がいてスタッフの方がいるという組織のスタイルや、プロフェッショナルとしての知識やノウハウを売る仕事であることが非常に近しいのではないか、と考えた訳です。調査を始めたところ、いろいろな意見をいただき、「そんなことは士業には必要ないよ」という意見もございました。しかし、士業の業界でも経営のノウハウが必要だとおっしゃっていただく方もおられ、そうであれば、ぜひ本格的に取り組んでみようということになったのが最初のきっかけです。
我々弁護士は、マーケティングや経営という言葉には疎い存在です。今まで考えてこなかったのが実情です。私も出口さんのマーケティングマニュアルの本を拝見して、こういうものは今まで読んだことがなかったとういのが正直な感想でした。ただ、マーケティングというと、どうしても企業の営業をイメージしてしまいまして、弁護士は「マーケティング」という言葉にずいぶん抵抗感を抱いたと思うのですが、その辺はいかがでしょうか。
おそらく、ものすごく抵抗感がおありになった弁護士の方も多かったのではないかと思っています。本のタイトルについても、弁護士会等で一般に使われている「業務領域の拡大」とうい言葉も考えましたが、最終的には私どもの考え方をより明確に打ち出すという意味で、あえて「マーケティング」という言葉を使うことにしました。違和感を抱かれた先生もおられると思いますが、逆に何か新しいものに対する期待感みたいなものを抱いて頂けた場合もあるようです。
弁護士に対するコンサルティングを行うことに関して調査や取材をなさったということですが、対弁護士で調査等を実施されたのでしょうか。
そうです。他の士業についても調査しましたが、私は直感的に弁護士がいいと思いまして(笑)、調べだしました。
その調査では、具体的に何人くらいの弁護士に話を聞いたのですか。
最初の1年で100名以上の先生方に取材させていただきました。
「取材」という形ですか。
そうです。弁護士の増員等が始まった時期でしたので、「今後、弁護士の世界がどのようになっていくか」等について、取材なり情報交換をさせていただきたいということで依頼させていただきました。正直なところ、もっと断られるかと思っていたのですが(笑)、多くの先生に「そういう会社で一度であれば話をしてもいい」と言っていただきまして、取材させていただくことができました。
その100名くらいの弁護士はどのように選定されたのですか。
取材させていただいた先生から、また次の先生をご紹介いただいて、ということが多かったですが、中には『自由と正義』等を見て、弁護士の今後の展望といったことについて発言されている先生に、直接アプローチさせていただいたこともありました。
実際お会いになって、どのような話が興味深かったでしょうか。今まで知らなかったこととか、例えば、弁護士しかこのようなことは考えていない、今の世の中にはそぐわない古い考え方ではないかなど、どのような印象をお持ちになりましたか。
古いという意味ではありませんが、やはり経営やマーケティングに対して関心が薄いと言いますか、もっと言うと、経営やマーケティングを語ることはタブーというか、あまりよく思わない先生が多いな、とは感じました。
それでも弁護士に対するコンサルティングの需要はあるとお考えだったのですか。
そうですね。その一方で、一部の先生からは、「日本は2割司法と言われていて、まだまだ潜在的な弁護士の需要がある」とか「潜在的な弁護士需要を発掘するのにマーケティングが使えそうだ」というお声がありました。それで、私としては、今はまだご関心が薄いとしても、いずれそういうことが求められる、私どもで何かお役に立てる時代が来るのではないかと思いました。
そこからコンサルティング業務を開始されたということですか。
そうです。ただ、もちろんコンサルティング業務を開始するといいましても、我々も先生と同じで、依頼がないと開始できないものですから、まずは我々の考えを知っていただこうと思い、セミナーを開いて、「こういうことを考えておりますがどうでしょうか?」ということをやらせていただきました。それで、徐々にコンサルティングを開始していきました。
出口さんは、現在、月30件も弁護士事務所を訪問されているとどこかで書いておられたのですが、具体的にはどのような業務をされているのでしょうか。
私どものコンサルティングのやり方は、月に1回事務所を訪問して、所長の方や勤務弁護士の方、スタッフの方とお話をして、「こういうふうにやっていきましょう」というようなことをご提案したり、実際に進めていく、という形です。それが、月に30件あるということです。コンサルティングの中身は様々で、開業されて間もない事務所で依頼者の基盤がない場合には、どのようにして依頼を増やしていくかというマーケティングの話が中心になります。逆に、比較的規模の大きい事務所では、マネージメント面、どのように皆さんのモチベーションを高くやっていくかとか、評価はどのようにしているとか、キャリアアップをどのようにしていくか、とかいうようなことがご相談としては多いと言えます。
出口さんが担当されている事務所はほとんど東京にあるのでしょうか。
全国にあります。比較的、大都市の事務所が多いですが、地方も半分以上はあります。現在、全国の半分くらいの都道府県に私どものクライアント様の事務所があると思います。
なるほど。お聞きしていいかよくわからないのですが、法律事務所数としては、何件くらい担当されているのでしょうか。
継続的な顧問契約をさせていただいてる事務所が50~60事務所程度です。また、スポット的にご依頼いただくのが年間20~30事務所というところです。その他、法律事務所経営研究会というグループ・コンサルティングの会員事務所様が50事務所ぐらいです。あわせて、120~130事務所様ということになると思います。これは、私以外の担当を含めた数字です。
それは事務所単位でということですか。
そうですね。
ずいぶんコンサルティングを必要としている事務所があるのですね。
ご担当されている事務所数が120から130とういことですが、多くの弁護士や事務所から聞かれる質問の傾向などはありますか。
やはり最初は「依頼者を増やしていきたい」「顧問先を増やしたい、維持したい」「どういう分野のニーズがあるか」というご質問が多いと思います。初期のマーケティングがうまくいきだすと、「事務所をどの程度まで拡大できるか」「弁護士を何人採用するか」とういことが問題になってきます。その他、もっと抽象的というか、「弁護士としてのあり方」「事務所のあり方」に関してのご質問もよくいただきます。こういうのはちょっと哲学的ですね。
なかなか弁護士同士ではそのような話はできませんから、コンサルティングの専門家の方にお聞きしたいことなのかもしれませんね。
そうですね。それで思い出しましたけれども、典型的な1つのご質問として、「他の事務所はどうされているのですか」というご質問もよく頂きます。
哲学的な問いかけとなると、正しい答えが一つあるというわけではない問題ということになると思いますが、そういった質問に答えるにあたっては、どのようなことを心がけておられますか。
答えが一つではない場合は、いろいろな選択肢を、具体的な事例を含めてお伝えするということになると思います。例えば、どういう人を対象にしていったらいいのか、個人がいいのか法人がいいのか、法人だと大企業なのか中小企業なのかと、というようなご質問があります。もちろん、私どもからみて、今こういうニーズがあって、しかも弁護士が不足している分野というのはあります。この分野をやれば、沢山の依頼があるだろうという分野です。ただ、それとは別に、弁護士自身がその分野をやりたいかどうか、好きかどうかとうい問題があります。
この問題は基本的には弁護士が自分の持っている弁護士像をどうやって実現するかとうい問題ですよね。
そうですね。そういったご相談については、私どもの役割は、考える材料として調査結果や事例とともに、私どもなりの見解を提示するということになると思います。
自己実現の仕方はいろいろな方法があると思います。ところでマーケティングマニュアルの中に「依頼者満足度を高める」という章がありますが、弁護士の業務にとって顧客の満足が一番のポイントだと思います。日ごろ弁護士は各々顧客の満足度を上げる努力をしているつもりではあるのですが、外から見ると、また、依頼者の立場からみると、もう少し工夫が必要ではないかと思うのですが、この点はどのようなアドバイスをされていますか。
具体的に言うと、例えば「依頼者を待たせすぎているのではないか」というようなことです。依頼者を待たせすぎないように、アポの取り方を工夫するとか、待合室を作る、というようなこともあります。また依頼者も特に不満を感じていないことでも、より満足度を上げるという観点もあります。例えば、事件処理上は1回の面談でもできる場合でも、「依頼者の満足度や安心感を考えると面談回数を増やしたほうがいいのでは」とかです。
これまでの弁護士の業務では、相談者を待たせておいたり、面談回数を少なくして効率的におさえよう、といったようなことは、あまりなかったような気がします。
ちょっと事例として、適当ではなかったかも知れません。いろいろなケースがあります。逆に、あまりにも効率的でなさすぎる場合もあります。
以前から弁護士は「偉そうにしてる」という評価、自分では相談に対する答えをきちんとしているつもりでも、相談者から見ると高圧的に見えたり、不親切であったりしたところは問題になっていました。答えは役立つものであったが、この弁護士とは二度と会いたくないという感想が相談者からなされた例もあるようです。そういった例はまだ見受けられますか。
見受けられる場合もあります。また、非常に個性が強い弁護士で長く付き合っている方にとっては「そのキャラクターが好き」という場合でも、初めての人にとっては強烈過ぎる、ということもあると思います。
そのようなタイプの弁護士のコンサルティングをされたことはございますか。その場合、弁護士は耳を傾けますか。
コンサルティングを依頼していただいている場合は、やはり聞いているだけの場合が多いのかなと思います。
弁護士も頑固なものですから。自分はよく喋るが、ひとの話は聞かない人も中にはいるかと。
そうですね。中には聞いていただけない場合もございますけれども、それはもう、こちらの力不足です。
コンサルティングをお願いする、ということは人の話を聞こうという姿勢のあらわれでもありますよね。依頼者満足度というのは個別には弁護士自身よくわからないところがあります。相談の現場を見せていただくわけにはいきませんが、可能であれば見ていただいて改善していきたいというところは、だれでも時には思うと思うのですが。
幾つかの事務所で、相談の様子を録音して、事務所内の弁護士同士で聞いていただいたことがあります。それぞれの弁護士は、誠実にそれぞれの依頼に対応しているし、自分の対応がベストだと思ってやってらっしゃると思うんですが、所長とかパートナーの方から見れば不十分と言いますか、「もっと違う対応があるのでは」とうい指摘があることはよくあります。録音しなくても、例えばその事務所は10人の弁護士がいるとすると、所長がそれぞれの弁護士と一緒に相談に入ったとして、全部の対応が所長の考えるベストかというと、恐らくそうではないと思います。それは、つまり、それぞれの改善の余地があるということです。ただ、今までは、弁護士はそれぞれプロフェッショナルなので、そういったことは所長でも言いづらい、という雰囲気があったと思います。
弁護士はそれぞれ個性的ですからね。そういう意味ではずいぶんバラエティに富んでいる個性豊かな弁護士に対するコンサルティングは、ご苦労があると思うのですが、どのようなところに苦労されていますか。
そうですね。あまり苦労ということではないのですが、やはり、最初の段階では私どもがどのようなことをやろうとしているのかをご理解いただくところが、ひとつの難しさなのだと思います。どのような業界でもそのような見方はあると思いますが、「コンサルティングとは何をしてくれるのか」という部分です。「弁護士というのは儲けるためにやっているわけではない、その中でコンサルタントが本当に必要なのか」というようなことだと思います。私自身の本音は、企業のコンサルティングも法律事務所のコンサルティングも本質は変わらない、と思っています。企業も儲けのためだけに事業をしているわけではありませんし、顧客のニーズに応えることを通じて社会貢献しながら、自社の利益のバランスをとる、ということだと思います。ですが、そういった説明では分かりづらいので「企業のコンサルティングと法律事務所のコンサルティングは目的が違います。法律事務所の場合は、社会のニーズ応えることが最優先で、その上で事務所経営に必要な利益を残す、という順番です。」と言っています。
多くの事務所のコンサルティングをされていて、この法律事務所はすごい、これからどんどん伸びるだろうと感じられたこともあると思うのですが、それはどんな事務所なのでしょう。共通点などございますか。
共通点はあります。1つは弁護士やスタッフの方が頑張っているかどうか、とういことです。これは伸びるかどうかという意味では非常に大きな要素でございまして、当然に皆さん頑張っておられますが、頑張りの程度が違うわけです。自分の限界をどこに設けるのかということで。明らかにこの弁護士は他の弁護士より郡を抜いて働いている、労働時間的にも働いているにもかかわらず自分はまだまだやれると思っている方もいらっしゃるわけです。そういう方、そういう事務所は非常に伸びます。もう一つは、ニーズを的確に捉えてるかどうか、ということが大きいです。弁護士会の中でもいろいろ議論があると思いますが、「まだまだ弁護士のニーズはある」という考え方と「こんなに増やしてもニーズはない」という意見があると思います。ニーズが見えている方は「まだある」と考えます。「どう見てもある。実際に断るぐらい相談がある」という先生もいれば、「ない。どう見てもない」とうい先生もいます。これは個人の分野も、企業の分野も同じです。弁護士・スタッフがそれぞれ、他よりも頑張っていて、且つニーズを的確に捉えておられる事務所は確実に伸びます。
非常に抽象的ですが、「頑張り方」ということでしょうか。
そうですね。労働時間についても、事件数にしてもそうです。経営者弁護士の場合、所員数もそうです。全く同じ状況でも、「まだ、断ってしまっている。もっと頑張らねば。」という先生と、「自分は非常に頑張っている。自分としてはこれが限界だ。できる範囲で誠実にやっていこう。」という先生がある訳です。規模的に言えば、前者が伸び、後者は伸びません。もちろん、必ずしも伸ばさなければならなくもないわけです。
「誠実」という言葉がでてきたのですが、弁護士が誠実に仕事をしていくということをどのように捉えていますか。
私がお答えするのもおこがましいご質問だと思うのですが、その時、自分が考える「誠実」でやっていくことが、一番できることだと思います。1年365日、自分の最高を出せるかというと、やはり、体調が悪いときもあるでしょうし、そうではないのではないかと思うのです。まず、それをできるだけ最高のところへ持っていこう、ということが誠実だと思います。また、次の段階では、自分が誠実だと考えていることは、他の方の誠実と比べて十分なのかどうかを検討することで、「誠実」のレベルもあがっていくのではないかと思います。良い例えかどうかわかりませんが、例えば、期日に書面を出す、ということがあります。必ず、期日の1日前に出すことが、自分は誠実だと考えている。ところが、別の先生は、自分は1週間前に出さないと気持ちが悪い、それもう依頼者に対しても裁判所に対してもその方が誠実だ、という先生もあるわけです。
そういう意味で、「誠実」と自分で思っていても、より「誠実」なやり方があるのではないかと・・。
ということを常に求めてさえいれば、それは「誠実」なのだと思います。
リーマンショック以来このような経済状況で、弁護士の業界も企業法務の仕事が少なくなっていると聞いているのですが、このような状況下で弁護士はどのようなスタンスで仕事をすればよいかと。最高最大限の誠実、頑張るというところはもちろんですが、現実的には今どのような準備をすればいいかというアドバイスはありますか。
はい。企業法務の仕事が減っているのは2つの要因があると思います。1つ目は不動産関連等、好況期には沢山ある仕事が減っていることです。2つ目は、企業には同じように法務の仕事があったとしても、経費削減のために弁護士に依頼する部分を減らしている、ということもあるのだと思います。それを踏まえて、まずできる対応は2つあると思います。1つ目は、不況期型の分野を強化することです。倒産、再生はもちろんですが、リストラ等労務の問題もあります。2つ目は、これは弁護士に限らずですが、不況期は既存のお客様、依頼者により力を入れることが大事だと言えます。新規の依頼を控える企業でも、強固な関係があれば、既存の顧客契約を辞めることは少ないのです。
このような状況下で弁護士が依頼者のために何ができるかということをもっと考えなければいけないということですね。
そうですね。
リーガルアドバイスを必要としている人たちに対して、「弁護士はこのようなことをしてあげられますよ」という能力や意志を伝えることができるのかというのがマーケティングなのでしょうか。
そうですね。ご相談に来られた方や元々のお知り合いに「このようなことができますよ」と提案することも一つですし、広告やホームページなどを通じて、今まで会ったことのない人たちに対しても、そういうことを伝えることも一つです。どちらも大事ですが、後者の、今まで会ったことがない人に対するマーケティングという点について、もともと広告が規制されていたこともあって、弱い事務所が多いのだと思います。
マーケティングの方法として、広告ということをおっしゃいましたが、ご著書の中では、「自己投資」することもマーケティングであるというお考えをお書かれていました。現実問題として、いろいろなマーケティングをやろうと思っても、金銭面や時間的な都合などでできることが限られてくる状況もありうると思われます。いくつもあるマーケティングの方法の中で、特にこれには時間やお金をかけてでもやるべきだということはありますでしょうか。個々の弁護士のレベルであったり、事務所の規模等によって違ってくるとは思いますが。
一つは商品力を高めるために、それぞれの弁護士が時間をかけて専門の勉強をしたり、勉強会に出たり、ということはやるべきだと思います。もう一つ、販促力の面では、確かに個別の事務所によって違うのですが、あえて何か一つ上げるとすれば、ホームページに力を入れられることがお奨めです。圧倒的に情報発信力を高めることができるからです。
マーケティングの前提として、個々の弁護士の能力、質をあげないといけないですよね。若手の弁護士の自己投資、例えば世の中で言われているのは、収入の一割を自己投資にあてる、将来得たい収入の一割をあてる等言われていますが、若手の弁護士に対してその辺をどのようにアドバイスされますか。
例えば「この分野の能力を身につけたい」というような場合は、年間1000万円を稼いでその1割の100万円をその講習会や勉強会にあてるというよりは、年間の収入を900万円にして、100万円分の時間を空けて、その時間でその分野の仕事をボランティア(無償)でもやるのが勉強になると思います。やはり、実務を通してということ、その案件に関わるということが大事だと思います。所属している事務所が取り扱っていない分野で、且つ、ボスが他の仕事をやってもいいよ、という事務所であれば、弁護士会等で声をかけて「僕、ちょっと時間があいているので手伝いましょうか」と言うとかです。
そういった意味では、弁護士会の会務は若手の弁護士にどんどん参加してもらって、そこでいろいろノウハウとか他の弁護士のやり方などを学んでほしいと常日頃思っているのですが。
そうですね、私もそう思います。これは、実は普通の、一般の会社でもそうなのです。例えば、私どもでも、入社直後は当然自分のクライアントがありませんから仕事がないわけです。ですから、沢山クライアントを持っている先輩に「私もついて行かせてください」とか、他の部門の先輩にも「そういう仕事、僕もやりたいのですが」と言って、仕事を作っていく、その中で能力を高めていくしかないのです。それと同じように、若い弁護士の方は、事務所に入ってもいきなり自分の仕事がないこともあると思いますので、最初はボスがやっている仕事を手伝わせてもらう。事務所でやっていない分野があれば、弁護士会の委員会や勉強会に顔を出したりして、仲良くなって、ということですね。もちろん、ボスの許可をとってやらないといけないでしょうが、そういう場としても、弁護士会は凄く有効だと思いますね。せっかく使えるリソースだから使ったら良いのにと思います。
若手の弁護士からの相談も多いのですか。
そうですね、多いと思います。30代、40代とかの方が多いと思います。
若手の弁護士に共通する問題やアドバイスはありますか。
先ほども申し上げましたように、若手の方からのご相談は、依頼の獲得に関することが多いです。特に、若手の先生に共通する相談というと「主要な企業は既存の事務所にておさえられている。どうしたらいいのか。」というものがありますね。
それは昔からいわれていますよね。
そうですね。言われていますけれども、実際調べてみたら絶対押さえられていないところもあるのです。どんどん新しい企業が生まれていますし、最近できて成長している企業は、当然、課題や問題も多く発生しますので、弁護士のニーズも多いです。
今、弁護士の大増員が進行していますが、若手の業務の在り方は将来的にかわってくると思いますか。人数が増えてくるとどうなるかとう不安を持っている弁護士が多い、その中で、どういうアドバイスをされますか。
私どもなりに、どのうようになるか、どのようにしたら良いか、という予測はございます。もの凄く、単純化して3段階でお話します。かつては弁護士が少なかったし、「料亭」型の弁護士が多かった。一般の人には身近ではなかった、ということです。次に今やっていること、或いは、今やるべきことは、弁護士を一般の人により身近にしていくこと、リーガルサービスを浸透していくことです。さらに次の段階になると、またやるべきことは変わってきます。リーガルサービスが浸透した前提で、「うちはこういう事務所ですよ。」「私はこういうことが得意ですよ。」というように、依頼者に対して多様な選択肢を作っていくことが重要になってくると思います。これは飲食業でも自動車産業でも、どんな業界でもそうです。まずは一般に浸透するというプロセスがあって、その後にその中でいろいろな選択肢に細分化されて、ということになります。弁護士についても私どもはそういう見方をしています。だから、今独立される若い弁護士は、一般の人に「リーガルサービスがありますよ。」と広めていく一つの使命があるのではないかと思います。2020年に独立する若い弁護士は、「こんなリーガルサービスがありますよ」と言っても、「知っているよ。」と言われるかも知れません。その時には、「うちはここが違う。こういう事務所だ。」ということが必要になるのではないかと思います。
リーガルサービスがいきわたるというのが司法改革の目的ですから、そのような方向性は、まさに考えてきた方向性だと思います。新規独立する場合のことをお聞きしたいのですが、新しく独立したいという弁護士には、どういう準備をしたらいいかとか、どういったタイミングがいいかとか、どういうアドバイスをされますか。今までは、実務に慣れて、自信がついたら独立ということが多かったと思うのですが。
今の若い先生の中には、必ずしも独立しようと考えておられない先生も増えていると思います。独立するかどうかとか、タイミングがどうかという明確な基準はありませんが、どちらが世の中に役立ちそうか、ということを考えていただくと良いと思います。事務所に残った方が世の中に役立てることが多い、自分の力が発揮しいやすい、とかです。逆に、今の事務所についても自分が役立てることがなくなってきたな、独立した方が役に立てそうだ、という場合もあると思います。
今の自分が事務所に残るのと独立するのとでどちらの方が世の中の役に立てるかという観点だとわかりやすくていいですね。
そうですね、現実的には、ボスと合わないとか、独立した方が収入が上がるとか、色々あるかと思いますけども。ご相談に来られた時にもお伝えするのも、本質的にはまずそこが一番重要なのではないかということです。ただ、合わない方と一緒にいるのは大変でしょうから、それはそれで1つのタイミングですよ、と(笑)。
それは移籍などでも同じことでしょうか。
そうですね。今の事務所よりも違う事務所に移った方が役に立つ、自分の力が発揮できると思ったら、移籍することも一つの選択肢だと思います。
昔から、独立するとやっていけるのだろうか、という不安がありますが、今、もっと弁護士の数が増えてきて独立が大変な時代なのですが、こうやったらなんとかなりますよ、というのは何かありますか。
誰かの役に立つ、ということを常に考えていれば絶対何とかなると思います。いつの時代にも、困っている人というのは絶対いらっしゃいます。今、どういうことで困っている人がいるのか、どういう人の役に立ちたいかを見ていけば、絶対に弁護士の仕事がないということはないと思います。
誰かの役に立つ、という意識をもっていればなんとかなると。
そうですね。
そういう言葉は、若い独立したての弁護士にとっては重要な言葉ではないかと思います。いいお話を聞かせていただきました。
現実に困っている人は沢山います。企業もそうです。私は、よく社内の別の部門のコンサルタントから相談されるのです。「自分のクライアント企業がこういう法律問題で困っているから、弁護士を紹介して欲しい。」ということですね。大きい会社でも顧問弁護士がいなかったり、まだまだこんなにニーズがあるんだなぁ、と感じます。
今、弁護士大増員ということで、就職先がないということが弁護士会の中でも大きな問題になっていて、採用することについては弁護士も慎重です。この先、採用して給料を払えるだけの仕事が増えるのかという心配もあるので、なかなか採用に踏み切れないのですが、経営の立場の弁護士としていま採用しておくべきですよ、といった点からのアドバイスはありますか。
例えば、私どものお付き合い先の事務所様は、マーケティングに積極的に取り組まれていますので、案件が多くて仕方ない、という場合が多いです。更に、まだまだ取り組みたい分野のマーケティング手法があるのですが、弁護士が足りなくてできない、という状況です。ですから、2009年末も、多くの事務所が沢山の新人弁護士を採用されています。従って、積極的にマーケティングをやるつもりがあれば、採用しても、十分に仕事を増やすことができると思います。とにかく、法律事務所はやりたいことが沢山あっても、弁護士が足りなければできませんので。
そのような努力をして、どんどん新規の弁護士を採っていただければと思うのですが、そのためにひあマーケティングを意識したほうがよいということになりますね。
まずマーケティングをやっていただければ、増やしても大丈夫だと(笑)。本当にそう思っています。
弁護士法人が徐所に増えていますが、コンサルタントの立場から、弁護士法人はお勧めなのでしょうか。
継続的に発展する組織づくりをしていくという視点でも、お勧めと言えます。例えば、ボスがいて、勤務弁護士が2人いるというような事務所の場合、パートナーになってもあくまでもボスの事務所、という意識があると思います。そうすると、いつか自分も独立して、ということも考えたりすると思うのです。ですから、法人化することは、「いや、うちはボス1人の事務所ではなくて、みんなで運営しているものなのだ」ということの1つの現れになるのかな、と思います。また、これは内部的なことですが、外部に対しても、「これは自分1人の事務所でなくて、みんなでやっていますから、別に私が病気になっても問題ありません」と。もちろんそういうことを志向されるかどうか、あくまでも「俺の事務所の方が良い」「メインは、俺なんだから」という先生もあるわけです。
法律事務所のマネージメントの観点ですが、今までのご経験で共通してこの点はこうしたらいいということがあれば教えてください。
そうですね。共通して多いのが、勤務弁護士のキャリアをどう考えるのか、とうい課題です。つまり、3年とか5年で独立していただいて、また新しい弁護士を採ると考えるのか、もしくはずっと残っていただいてどんどんパワーアップしていくという事務所づくりにするのか、ということです。どちらにするのかということをはっきりさせて、そちらの方向にボス自身がシフトしないとうまくいかないと思います。ずっと残ってほしいということであれば、そのような事務所づくりをしなければいけないと思いますし、ずっと残ってほしいと言いながらも、でもいつまでも「イソ弁」扱いとかがあるとうまくいかないかと。これは共通して感じてらっしゃる課題じゃないかなと思います。
永遠の課題かもしれませんね。しかし、これからは、そういったところを意識してきちんとスタンスを打ち出さないといけないのでしょうね。
入った弁護士の志向性もあると思いますので、私は両コースを作ることを勧めています。残ってパートナーになるというコースと例えば5年勤務して独立するというコースですね。修業していただいて、お互い気持ちよく送り出すと。両方のキャリアプランがありますということを募集段階から提示して、どちらも応援しますよ、ということです。もしくは、採用段階から「みんなでやっていこうと思っています。そのために法人化しています。パートナー制度も設けています。」と。
そう言わないと、やはりどちらも迷ってしまうと思われますし、勤務弁護士の方でも、「このままずっと置いてもらえるのかな。」とか「そろそろ肩叩かれたりしないかな。」とか(笑)、考えてしまうと思うのです。スタッフの方はずっといていただくということになっている場合も多いですが、勤務弁護士の立場はものすごく不安定なことが多いですね。
そろそろ時間になりました。本日いろいろお話をいただいてきたのですが、最後に、今までのお話を総括していただき、また、これを話しておけば弁護士に役立ちそうだと思われることがあればお話ください。
まずは、弁護士のニーズはまだまだありそうだ、ということです。そして、それらを発掘するために、どんどん情報発信をしていただきたい、ということです。色々な先生とお話をさせて頂くと、「ああ、そういうところで弁護士が入ることでそんなメリットがあるんだ」というようなことも凄くたくさんあるのです。一般の人が、弁護士がそんな問題を解決してくれると知らずに何か悶々としていることがいっぱいあるな、と。企業もそうです。「ああ、そういうようなことをあの社長がいっていればあんなに悩まずに済んだのに」みたいなことがたくさんあります。ですから、そういうことを、講演会でもいいですし、セミナーでもいいですし、ブログに書くでもいいのですが、とにかくどんどんPRしていくことで、いろいろなニーズが発掘されて、それが自分のところに依頼が来るとか、他の事務所に依頼に来るかは別として、全体としての需要の喚起につながる、困っている人が助かる、ということです。一言に集約すると、「がんがん情報発信してください」ということになります。
これまで弁護士というのはマーケティングということは意識しないできたわけですが、顧客満足度を高めたり、自分の目指す弁護士像を実現するためにも、マーケティングやマネジメントが重要だと思いました。本日は有意義なお話をありがとうございました。
ありがとうございました。
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